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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)554号 判決 1954年2月23日

長崎市今魚町六二番地

上告人

原岡善次

同市南山手町乙ノ一七番地

上告人

西尾勇吉

同市西山町一丁目八一番地

上告人

朝倉利平

右三名訴訟代理人弁護士

松本烝治

吉長正好

春田定雄

谷信一郎

丁野曉春

大阪市北区宗是町一番地

被上告人

川南工業株式会社

右代表者監査役

陣内惣三郎

東京都渋谷区松濤町二六番地

被上告人

副島千八

同都同区猿楽町五六番地

被上告人

木内四郎

同都文京区小石川駕籠町一七二番地ノ二

被上告人

〓原鉞止

同都港区麻布笄町九八番地

被上告人

塩原有

同都渋谷区緑岡町一八番地

被上告人

中島実

右当事者間の仮処分取消事件について、大阪高等裁判所が昭和二六年八月九日言渡した判決に対し、上告人等から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとも認められない。(被上告会社を除く被上告人等が取締役を辞任し新に取締役が選任された以上本件仮処分の必要がなく、従つて本件仮処分決定を取消すべきものとした原判旨は相当であり、これを攻撃する論旨第一、二点は採用に価しないし、本案に関する上告論旨が理由なき以上、訴訟費用に関する論旨も採用出来ない。大審院昭和五年(オ)五七号執行異議事件、同年三月一五日判決参照)

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

昭和二六年(オ)第五五四号

上告人 原岡善次

同 西尾勇吉

同 朝倉利平

被上告人 川南工業株式会社

同 副島千八

同 〓原鉞止

同 木内四郎

同 塩原有

同 中島実

上告代理人弁護士松本烝治外同吉良正好、同春田定雄、同谷信一郎、同丁野曉春の上告理由

第一点

原判決は「昭和二十五年八月二十八日被上告会社長崎支店において取締役監査役の改選等を議案とする被上告会社の臨時株主総会が開かれたこと、右総会において被上告会社を除く被上告人五名は取締役に選任せられたものとして、同月二十九日その就任登記がなされ、翌三十日被上告人副島が代表取締役に就任した旨の登記がなされたこと、上告人は同年九月一日被上告人全部を被申請人として大阪地方裁判所に仮処分を申請し、同裁判所は同月十六日昭和二十五年(ヨ)第一三六三号仮処分決定をなし、上告人から被上告人に対する本案の判決確定まで、被上告人副島の被上告会社の取締役及び代表取締役の職務の、被上告人木内、同柳原、同塩原、同中島の被上告会社の取締役の職務の各執行を停止し、大西耕三を被上告会社の取締役及び代表取締役の職務の、大月伸、小野村彌太郎、片山忠次郎、和仁宝壽を被上告会社の取締役の職務の各代行者と定めたことは当事者間に争がない。ところが、右被上告人五名が代表取締役職務代行者大西耕三に取締役辞任届を提出したことは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第五十号証によればその提出の日は昭和二十六年七月十三日であることは一応認めることができる。又同月二十三日開かれた被上告会社の臨時株主総会において、川南豊作、川南外爾、上野外次郎が取締役に、松尾孫八が監査役に選任せられたことは当事者間に争がなく成立に争のない乙第五十二号証によれば同人等はその就任を承諾したことを一応認めることができる。右のように仮処分によつて職務代行者を定めたのは被上告人五名の職務の執行を停止したことを前提とするものであつたところ、その後被上告人五名が取締役を辞任し、新たに取締役が選任せられた以上。(本案判決確定前であつても)これによつて職務代行者はもはや存続の必要がなくなつたものであるから、民事訴訟法第七五六条、第七四七条にいわゆる事情の変更がある場合にあたるものといわなければならない」との理由のもとに本件仮処分申請は却下すべきものと判示した。

然し本件は昭和二十五年八月二十八日の臨時株主総会に於いて被上告人副島千八他四名を取締役に選任する決議は不存在である仮に不存在でないとしても、その決議は無効であることを上告人に於いて主張する訴訟であることは第一、二審に提出した上告人提出の準備書面の通りであるから若し決議が不存在又は無効であるならば被上告人副島千八他四名は一応も取締役たる資格を取得しないのである、而して同人等がその資格を取得しない限り取締役資格取得を前提とする辞任及び辞任の登記は全く無効のものであると云わねばならないから原審が決議の不存在又は無効であるか否かに触れないで右仮処分申請却下の判決をなしたのは違法であつて原判決は破棄すべきものであると信ずる。

第二点

原判決は前記の如く新たに取締役が選任せられた以上これによつて職務代行者はもはや存続の必要がなくなつたものと判示したが新たに取締役が選任されたのは本件臨時株主総会選任に代わる取締役として選任されたものでないことは、本件記録上明白であつて無関係の別個の事実である。原審は彼此混同したもので本件仮処分申請は取締役選任決議の無効を理由として商法第二百七十条により為されたものであるから、此の無効の当否を判断しない限り之を取消した原判決は違法である。仮に被上告人副島千八他四名の辞任又は其の登記によつて同人等に会社職務執行の意思はないとしても右株主総会は川南豊作の不信の有無の原因として会社再建の為めの取締役選任決議の総会であつた事実と代行者によつて取締役の職行の必要性ある事実等は第一、二審準備書面記載の通りであるから原判決が単純に仮処分申請を却下したのは違法であると信ずる。

第三点

前掲上告理由が仮に理由ないとするも原判決によれば昭和二十六年七月二十三日開かれた被上告会社の臨時株主総会に於いて川南豊作他二名が取締役に選任されその就任を承諾したことと被上告人副島千八他四名が辞任したことによつて事情変更により、本件仮処分の必要性なしと判断されたものである。果して然らば右、到来前迄は仮処分の必要性を肯定されたものであるから其の到来前迄の訴訟費用を全部上告人に負担させた原判決は違法である。

以上

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